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▼ 孤城の吸血鬼編1

呆然と汽車を見送ったわたしとアレンくん。やっぱりアレンくんを助けるにはわたしじゃ力不足だったんだ…。

「申し訳ございません修道士さま。だがしかし!こちらも急を要するものでして…」

汽車が行ってしまったからか、突然わたしとアレンくんの上から下りて、どうか私どもの村をお救いください黒の修道士さま!!と土下座を始めるおじさんに、わたしとアレンくんの目が点になった。なに?修道士さまって。まったく心当たりがないんだけど。ゲオルグと名乗ったそのおじさんは、この村の村長さんだったらしい。わたしとアレンくんを担ぎあげた村長さんは、村の集会所と思われる建物の扉を勢いよく開けた。中にはそれぞれ武器を持った村人たち。え?助けてくださいとか言いながらもしかしてわたしたちここで殺される感じ?ひえ、と思わず声が出た。そしてわたしたちの胸にあるローズクロスを視界に入れた途端、村人たちが一斉に奇跡じゃ!と言いながら詰め寄ってくる。村長さんから解放されたのをいいことに、怖すぎてついアレンくんの後ろに隠れてしまった。ここの村の人たち全員揃って怖いんだけど。わたしもうリナリーに会いたい。助けてリナリー。うっうっ、と半泣きでパワフルな村人たちに椅子に縛り付けられ、村人たちの抱える事情というものを説明される。なんでも、この村の奥にクロウリー男爵という吸血鬼が昔から住んでいるらしい。その城に入ったが最後、生きては出られぬと伝えられているというが、わたしもアレンくんもさすがに信じられず、そんなまさか、と言うと鬼気迫った村長さんが顔を近づけてくる。縛られてて動けないから余計にこわい。その吸血鬼、クロウリー男爵は村人に危害を与えることもなく静かに暮らしていたのだが、ある日の夜突然、村人を襲い始めたらしい。最初の犠牲者は独り身の老婆で、クロウリー男爵はその身が蒸発するまで生き血を吸いつくし殺した。

「うそぉ」

びっくぅ。突然その場の樽の中から現れた見覚えのある赤毛に、驚きのあまり心臓が口から出そうだった。なんでそんなとこにいるの?どうやって入ったの?なんでもいいけどとりあえず助けてほしい。

「ラビ!?どうしてここに?」

「ラ、ラビ!たすけて…!」

「お前らを探しに来たんさぁ。そっちこそ何やってんだ?」

突然現れたラビに警戒心を露にして騒ぐ村人のひとりが、ラビの胸元のローズクロスを見て、村長にその存在を告げる。嫌な予感しかしない。

「黒の修道士さまがもうひとりィー!!」

乱闘の末わたしたちと同じように椅子に縛り付けられたラビと3人並んで村人から続きを聞くはめになった。ねえ助けにきてくれたんじゃなかったの…。クロウリー男爵が村人を襲いだす前に、わたしたちと同じローズクロスを身にまとった神父がクロウリー男爵の元を訪れ、男爵に異変があった際は同じ十字架の服を着た者たちが事を解決してくれる、と言い残して立ち去ったらしい。同じ十字架ってローズクロスのことであれば、それはもうエクソシストの誰かってことでは?そして神父というワードに当たってほしくない予感が頭を過った。今日までですでに9人の村人が男爵の餌食になっているらしい。今夜決死の覚悟でクロウリー男爵を討ちに行くつもりだった村人たちは、タイミング良く、アレンくんを発見し、ついでにわたしとラビを捕えたとのことだ。

「主は我らをお見捨てにはならなかった。黒の修道士の方!どうかクロウリーを退治してくださいましぃー!!!」

村人たちに一斉に土下座をされ、遠い目をするしかない。行きたくなさしかない。わたしたちはAKUMA専門で吸血鬼退治なんてやったこともないのだけど。しかし、アレンくんその神父の特徴を尋ねると、完全にクロス元帥と一致したため、わたしたちも無視することはできなくなってしまった。事のあらましを伝えるためにリナリーとブックマンにラビのゴーレムで通信を入れると、リナリーもクロス元帥の残した伝言なら従うべきだという意見だったので、ふたりにはティムと先に行っててもらい、わたしたちはこの件を解決してから後で合流することになった。

「3人とも気をつけてね。その…吸血鬼の人に噛まれると吸血鬼になっちゃうらしいから」

童話で読んだ、と言うリナリーがならないでね!と念押しした。うん…と返事をしつつも、さすがにわたしはそんなこと信じていないし吸血鬼っていう存在すら信じられないけど、単純にそんなに村人を殺せる存在に会いに行くのが本当に怖い。わたしだけ待ってちゃダメかな。リナリーとブックマンとティムをひとりで追いかけちゃダメかな。りなりぃ、と情けない声を出すと、リナリーがとっても心配そうにわたしの名前を呼んだ。

「なまえ、本当に気をつけて…。アレンくんもラビも、なまえのことよろしくね…」

「いざとなったら小僧どもを盾にするとよいぞ、なまえ嬢」

「オイコラパンダ」

リナリーたちとの通信はそこで切れ、小声でぼそぼそと今どき吸血鬼なんてなぁ、と話していると、ずっと片手を縛られていたわたしたちのロープがビン!と村長によって引かれる。ねえなんでまだわたしたち縛られてるの。クロウリー男爵の城門前にたどり着いたらしいが、黒の教団に負けず劣らず悪趣味である。この門から先はクロウリー男爵の所有地で、そのさらに先の湖上の頂がクロウリー男爵が住む城らしい。なんの声かもなんの音かもわからない不気味な声が門の奥から聞こえて、ぴ、と縛られていない方の手でアレンくんのコートを掴んだ。尻込みしているわたしたち3人を、村人が目を血走らせながら急かす。うっす…とアレンくんとラビのふたりで門を開け、その後ろをわたしが着いていく。門の中もなかなかの悪趣味で、変な像が並んでいる。

「あれ?アレンお前なんでもう手袋はずしてんの?」

先頭を歩くラビがはははははと空笑いを浮かべながら普段は手袋に隠されているアレンくんの左手を指摘する。

「まさか怖いの?」

「まさか。そういうラビこそ右手がずっと武器をつかえてますけど?」

「オレは怖くなんかないさぁー」

「わたしはこわい…帰りたい…」

「なまえはオレらの後ろに隠れてるだけだろ!」

その時、ぞわり、と確かに鋭い気配を感じ、咄嗟に戦闘態勢をとる。

「近づいてくる」

ものすごいスピードで近づいてきた何かは、わたしたちを通り過ぎていく。早すぎて誰も反応できなかった。そして次の瞬間、村人の中から悲鳴が上がり、続いてフランツが殺られたぁぁぁ、という声が聞こえる。村人のひとり、フランツさんに噛みついたままこちらを振り返る黒のマントを羽織った男性。彼こそが、アレイスター・クロウリー男爵その人だった。じゅるる、とフランツさんが吸血される様子を見せつけられ、村人たちがパニックになって逃げ惑う。

「なまえは村人たちをお願いします」

アレンくんとラビがイノセンスを発動し、フランツさんをくわえたままのクロウリー男爵に対峙した。わたしはアレンくんに言われた通り、クロウリー男爵から村人を庇うようにイノセンスを発動した。たくさんの村人をまもるために盾を大きく展開しているせいで防御力は弱くなってしまうけれど、前にアレンくんとラビがいるのならば一瞬でもガードできれば大丈夫だろう。

「どうします?」

「どうってなぁ…噛まれたらリナリーに絶交されるぜ」

軽口を叩きながらもふたりで連携をとって戦っているが、ラビの大槌小槌を満で大きくして押しつぶしても、吸血鬼特有の固く鋭い歯で防がれてしまう。ラビはそのまま大槌小槌ごと歯でブン投げられる。なんとか左手でクロウリー男爵を捕えたアレンくんに、クロウリー男爵は大笑いをすると、思い切り自身を捕える左手に噛みついた。そしてアレンくんの血を吸ったかと思うと、

「うげええええええ苦い!!」

アレンくんから離れてまたもやすごいスピードで城に逃げ帰っていった。げええええ、という声がだんだんと小さくなっていく。え、そんなに。痛そうに腫れあがったアレンくんの指を眺め、アレンくんとラビと3人顔を合わせる。

「絶交されるな、アレン…」

静まり返ったその場に、吸血鬼に噛まれたら吸血鬼になってしまうという伝説を素直に信じているリナリーを思い返すラビの声が響いた。

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